毎年、健康診断に行っている人も多いだろう。健康診断は身体の異常を見つけることはもちろん、自分自身の「平常時」の状態を記録するためにも重要だ。今回の記事で紹介するのは、地球の健康状態を記録するための足掛かりになるニュースだ。
2023年9月、地球の環境に関する最新の研究が、国際的な科学者のチームによって発表された。この研究では、人々が地球で安全に活動できる範囲の限界点である「プラネタリー・バウンダリー」として知られる9つの要因(※)が初めて詳細にマッピングされたのだ。その結果、これら9つの境界のうち6つがすでに上限を超えていることが明らかにされた。
※ 9つの項目の中には、以下のことが含まれる:「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用の変化」「淡水利用」「生物地球化学的循環」「海洋の酸性化」「大気エアロゾルによる負荷」「成層圏オゾン層の破壊」「新規化学物質」。それぞれの項目の評価基準など詳細に関しては、こちらのページを参照。
今回の研究結果では、(上記の図の上から反時計回りに)「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用の変化」「淡水利用」「生物地球化学的循環」「新規化学物質」の6つの項目で境界を上回った。「海洋の酸性化」「大気エアロゾルによる負荷」「成層圏オゾン層の破壊」は3つの項目は規定数値の範囲内にとどまっている。
この研究は、「プラネタリー・バウンダリー」が2009年に提唱されて以来、3回目の評価として行われた。今回の研究で今まで数値化ができていなかった「大気エアロゾルによる負荷」「新規化学物質」が初めて定量化され、9つのプロセスとシステムすべてに関する、最初の完全な(一つの項目も欠けていない)評価となった。
研究の主導者であるキャサリン・リチャードソン教授は、地球を人間の体に例え、プラネタリー・バウンダリーを「血圧」として説明している。特定の数値を超えることが即座に大きな変化をもたらすわけではないが、それは生態系への潜在的なリスクを大きくする可能性があるというのだ。
人間の活動は、地球の気候や生態系に前例のない影響を及ぼしており、これが惑星全体の安定性を損なっているという。特に、地球温暖化や、生物圏の変動、森林伐採、汚染物質の増加、プラスチックの使用拡大、窒素サイクルの変動、淡水の枯渇など、多くの要因が「プラネタリー・バウンダリー」の超過を引き起こしている。
また、新たな科学的証拠により、「大気中のエアロゾルの増加」という項目も初めて定量化された。この境界は、まだ上限を超えていないが、大気中の粒子汚染がモンスーンシステムに影響を及ぼしているという点で、特定の地域に影響があらわれることが明らかにされている。
地球は生きている惑星であり、その結果は予測不可能だ。そのため、「プラネタリー・バウンダリー」すべてに対する圧力を軽減しようと、科学者、政策立案者、ビジネス、そして社会全体がますます協力を図る必要がある。
「プラネタリー・バウンダリー」の考え方を用いてドーナツ経済学を提唱したケイト・ラワース氏はXにおいて「ドーナツ経済学の『環境的上限』に関する最新のアップデートがありました。しかしそれは決して良いニュースではありませんでした」
とコメントを残している。
The Doughnut’s ecological ceiling just got updated and the news is not good. https://t.co/sQ4lSyciIu
— Kate Raworth (@KateRaworth) September 13, 2023
今回紹介した評価は、たしかにハッピーな数字ではなかった。しかし今後、私たちが様々な立場から地球のレジリエンスを保護、回復、再構築していくにあたって、最初のステップとして現状を把握するために、大いに参考にできるものだろう。
【参照サイト】Earth beyond six of nine planetary boundaries
【参照サイト】All planetary boundaries mapped out for the first time, six of nine crossed
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